こんにちは、PicoCELA社長の古川です。今回から社長ブログを始めたいと思います。技術の話はもちろんのこと、モバイル通信の今後や社員紹介なども織り交ぜ、楽しくバラエティに富む内容にしていきたいと思います。

常識は非常識?無線LANのパラドックス :『高品質な無線LAN空間の作り方』社長ブログ第1回

第一回は、高品質な無線LAN空間の作り方について。

いきなり結論を言ってしまうと、「無線LAN親機は密に置けば置くほど全体の通信品質はアップする」ということです。

「そんなバカな?」と思われる方も多いでしょう。

これまでたくさんの法人向けの無線LAN空間づくりをお手伝いしてきましたが、よく誤解されていることの一つが、「無線LAN親機を設置しすぎると電波干渉が増えるのでは?」ということです。

無線LAN親機を高密度に設置すると何故、無線LAN空間の品質を高めることができるのでしょう?それは、電波の特性に深く依存する話となります。

送信アンテナから放射された電波は遠くに行けば行くほど弱くなります。真空中で1Wの電波を放射すると、1mの距離では100万分の23 (2.3e-5)Wまで電力は弱まります。20mでは10億分の57(5.7e-8)W、100mではなんと100億分の23(2.3e-9)Wにまで小さくなってしまうのです!電波というのは距離に対してなんとも急激に弱くなっていくのです。

ここでクイズ。皆さんがお使いのスマホはどれくらいの電波強度まで受信ができると思いますか?

最新のスマホでは、なんと、100兆分の32 (3.2e-13)Wくらいまで受信できるようになっています。

これを通信機の「受信感度」と呼びます。

しかし、スマホの受信電力が小さいということはそれなりのペナルティが発生します。スマホと無線LANアクセスポイントとの間では、受信電力に応じて通信速度の調整を行うのです。

最新規格の無線LANでは、最大の通信速度は1秒間に13億ビット(1.3Gbit)もの情報を伝送できるのに対して、受信感度ぎりぎりの低い受信電力である場合、1秒間に6百万ビット(6Mbit)しか伝送できません。その差は実に217倍ということになります。

例えば、無線LAN親機から1mくらい近傍の見通しの良い場所で、映画ファイルのダウンロードをする場合を考えてみます。

映画のファイルサイズは4GB(ギガバイト)=320億ビット(32Gbit)だとします。1mくらいの近傍だと最大の通信速度を享受できますので、この映画ファイルのダウンロードには、32Gbit/1.3Gbps=24秒しかかからない計算になります。これに対して、無線LAN親機から100m先の見通しのきかない場所、受信感度ぎりぎりの通信品質しか得られない場所で同じ映画ファイルのダウンロードをする場合は、32Gbit/6Mbps=5,333秒=1.5時間もかかってしまうのです!

1.5時間の間、無線LAN親機はずっとこの端末へ向けて電波を送信し続けます。その間、この無線LAN親機に接続している他の端末は通信の機会が奪われます。そればかりか、この無線LAN親機の周辺に設置した他の無線LAN親機の通信回線へ電波干渉を及ぼしてしまいます。

したがって、無線LANアクセスポイントと端末との距離をできる限り短くして、無線LAN親機と端末の間の受信電力をできる限り高く保つことができれば、通信速度を高く維持することができるようになるのです。

通信速度を高めることができれば短い時間でファイルのダウンロードができます。例えば1.5時間が24秒に縮まるのです。その結果、周囲の端末がより多くの通信機会を得ることができます。他の無線LAN親機のエリアへの干渉時間も短く抑制できます。

以上のことから、多数の無線LAN親機を高密度に設置して端末と無線LAN親機の通信距離を短くすることによって、高品質な通信環境が構築できることがお分かりになるかと思います。

多数の無線LAN親機を高密度に設置して端末と無線LAN親機の通信距離を短くすることによって、高品質な通信環境が構築できる

無線LAN親機を高密度に配置することで、高速通信のエリアを増やすことができる

無線LAN通信に造詣がある方は、「え?しかし無線LAN親機をあまり数多く設置してしまうとビーコン信号が増えてしまい通信品質が阻害されてしまうのでは?」という疑問を持たれる方もおられると思います。

各無線LAN親機は、通常1秒間に10回ほどのビーコン信号と呼ばれる特別な信号を周囲へ放送しています。

ビーコン信号は、各無線LAN親機が、周辺の端末へ向けて「自分はここにいるよ~」ということを知らしめるために送信しています。

無線LAN親機を高密度に設置すると、確かにビーコン信号の送信は増えてしまいますが、このビーコン信号1個の時間長は百万分の40秒(400x10e-6)程度ととても短いため、それほど大きな影響はありません。ビーコン信号は1秒間に10回しか送信されませんので、ビーコン信号の無線回線占有率はわずか0.4%程度なのです。99.6%の時間は空いているのです。

電波干渉が問題となるのは、「無線LAN親機の数」ではなく「端末の数」となります。

端末数が増えるほど、各端末の通信量が増えるほど電波の回線は混雑してきます。

別の言い方をするならば、100台の端末が存在するオフィス空間において、1台の無線LAN親機で済ます場合と10台の無線LAN親機を空間内に分散設置する場合では、必ず後者のほうがよりよい通信品質を享受することができます。

もし皆さんがお使いの無線LAN環境の通信品質が満足ゆくものでないのであれば、ぜひ一度、無線LANアクセスポイントを余計に設置してみることを検討してみてください!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。