新型コロナウィルスの影響で在宅勤務を導入された会社は多いかと思います。
自宅でのインターネット通信環境には、Wi-Fiをお使いの場合が多いのではないでしょうか?
みなさん、ご自宅で快適なWi-Fi環境を構築できていますか?
今回は、Wi-Fi環境をどうより快適化するかについて、お話ししたいと思います。
そのためには、まず電波のことを少し説明しなければなりません。

電波の様子を目で見ることはできませんが、我々は光であれば目で感じることができます。

光も電波も、「電磁波」と呼ばれる同じ物理現象です。
違いは何かというと、光は、大変高い周波数を持った電磁波なのです。
ガンマ線やX線といったいわゆる放射線も同じ電磁波で、光よりもさらに高い周波数を持っています。
皆さんは、よく「周波数」という言葉を聞いたことがあると思います。
そう、ラジオの番組を聴くときに、「周波数を合わせる」なんて言いますよね?

ラジオの番組を聴くときに、「周波数を合わせる」なんて言いますよね?

そもそも、この「周波数」とは一体何なのでしょうか?

アンテナから電波が放射される直前の電気信号をオシロスコープという特殊な装置を使って観察すると、以下の図のような信号波形が観察されます。

アンテナから電波が放射される直前の電気信号をオシロスコープという特殊な装置を使って観察すると、信号波形が観察されます。

横軸は時間、縦軸は電圧です。
山と谷の変化を繰り返している様子が分かりますね。
一つの山の頂上と、その次に現れる山の頂上の間の時間を「周期」と呼びます。単位は秒、よく使われる記号はTです。
1秒間に何回、山谷が現れるかは、周期の逆数、つまり1/Tで計算できます。
この1/Tを「周波数」と呼びます。

つまり周波数とは、山谷の変化をひとつの周期とする信号波形が、一秒間に何回出現するかを表している量なんですね。

単位には、電波の存在を世界で初めて実証した科学者の名にちなんで、「Hz」(ヘルツ)という言葉が与えられています。Hzの厳密な単位は(回/秒)ということになります。
いくつかの電波の周波数を比較してみましょう。

AMラジオ 526,500~1,606,500 Hz
FMラジオ 76,000,000~90,000,000 Hz
携帯電話 700,000,000 ~ 3,500,000,000 Hz
Wi-Fi 2,400,000,000~2,497,000,000 Hz、または5,150,000,000~5,725,000,000 Hz

アインシュタインは、真空中で光速度は不変ということを、彼の特殊相対性理論の原理としました。
電波も光も同じ電磁波ですから、電波の速度も不変です。
その速さは、1秒間におよそ30万km。
光も電波も、1秒間に地球を7周半も周回します。

光も電波も、1秒間に地球を7周半も周回します

ある周波数の電磁波が、1周期の時間にどれくらいの距離を進むかを示す量を「波長」と呼びます。

光の波長は380nm~750nm。

「1nm(ナノメートル)」は、1mの10億分の1の長さ。

そう、光の波長はとても短いのです。

光の波長と、いくつかの電波の波長とを比較してみましょう。

0.00000038~0.00000075 m
電波 AMラジオ 190~570 m
FMラジオ 3~4 m
携帯電話 0.09~0.4 m
Wi-Fi 0.06 m

電波の波長は光に比べるとずいぶん長いですね。
それくらい、ゆっくりと変化する電磁波なのです。
我々は光ならば目で感じることができます。
眼球にある水晶体レンズを通して網膜に光が投射され、網膜は投射された光を電気信号に変えて脳へ伝達し、脳が映像として認識するのです。
したがって、「眼」という生体器官は有機物で構成されたアンテナとも言えるでしょう。

光を見る眼球の大きさは直径2.4cmくらい。

携帯電話の波長は光の波長の10万倍以上なので、もし直径が2.4cm の10万倍、つまりもし2.4kmの眼球(!)がこの世に存在すするならば、携帯電話の電波を「見る」ことができるかもしれませんね・・・(笑)

冗談はさておき、眼に見えない電波が、いったいどう飛んでいるかを想像するためには、普段何気なく視覚している光に置き換えてみれば分かり易いと言えます。

部屋を照らす照明は、たいてい高い場所に設置しますよね。
低い場所に設置すると、部屋全体を照らすことが難しいわけですから、当然です。

電波を放射するアンテナでも同じことが言えます。

Wi-Fiルータを量販店で購入し、設置する場合を想像しましょう。
床の低い位置にこのWi-Fiルータを設置してしまうと、照明灯を床に設置するようなもの、部屋全体を明るく電波で照らすことはできません。
Wi-Fiルータはできるかぎり高所に設置しましょう。

さらに深く、光と電波の飛び方の違いについて踏み込んでみたいと思います。
光と電波では周波数が大きく異なります。
電波は光に比べて、大変低い周波数、つまり大変長い波長をもつ電磁波です。
波長が短いほど、電磁波は「直進性」が顕著になります。
波長が長いほど、電波の通り道に何か障害物があっても、より回り込んで電波は進行します。
この現象を「回折」と呼びます。

この現象を「回折」と呼びます

※出展:WiKiペディアより ©Verbcatcher

波長が短いほど、つまり周波数が高いほど、「回折」しにくくなります。

回折しにくい電磁波は、「直進性」が顕著になります。

直進性が高い場合、受信点から送信点を見通すことができなければ、電波は非常に弱まって受信されてしまいます。

逆に受信点と送信点の間の見通しが良ければ、より長い距離でも電波を到達させることができます。

Wi-Fiのような微弱な送信電力しか許されていない無線通信規格は通信可能距離がとても短くなります。

特に室内で利用する場合、残念ながら回折による電波の回り込みはほとんど期待できません。

・・・ということで、Wi-Fiルータをより適切に設置する際に押さえるべきポイントは以下の2つ。

(1) 出来る限り高い位置

かつ

(2)Wi-Fi通信を利用する場所が、よく見通せて、出来る限り近い位置

に設置すること。

イメージはこんな感じ・・・↓

Wi-Fiルータをより適切に設置する際に押さえるべきポイント

これらに注意すれば、きっとより快適なWi-Fi通信環境を構築できるでしょう!

    

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。