スマホの巨大化は、スマホ本体の容積も大きくしますので、より容量の大きなバッテリの搭載も可能にします。バッテリの大型化は、スマホの利用持続時間を延ばせる点はよいのですが、抜き差しならぬ事情もあるようです。スマホ自体の消費電力が機能の高度化に呼応して増大していることです。

私のiPhoneのバッテリー消費の内訳を調べてみると、メール利用が4割、ブラウザとSNS利用で3割、これらで全体の7割くらいの電力が消費されていました。一般にもよく利用されているアプリかと思います。

無線基地局が頭脳を持ち、そして連携する未来
無線基地局が頭脳を持ち、そして連携する未来

いずれのアプリも、クラウド上にある種々のサーバとやり取りをします。スマホの画面上で何かしらのリンクやボタンをタップすると、スマホとサーバ、両者ともに電力が消費されます。

クラウドとスマホを結ぶ通信回線には、様々なネットワーク関連の機材が介在しています。ルータやゲートウェイ、無線基地局などです。これらは物理的なハードウェアとして実空間に遍在し、それぞれが立派なコンピュータです。

折角、コンピュータがクラウドとスマホの間に設置されているのですから、スマホあるいはクラウドの処理の一部をこれらのコンピュータが肩代わりしてあげれば、様々なベネフィットが得られるのではないでしょうか?とくに、無線基地局はスマホに一番近い場所にあるコンピュータですので、この基地局に頭脳を持たせてはどうでしょう?

スマホをシンクライアント(thin client)化する

まずスマホ側から考えてみましょう。

スマホ内部で行っている様々な処理をスマホが接続する基地局が肩代わりするとします。

スマホをシンクライアント(thin client)化する、つまりユーザインターフェースの部分だけを担わせ、それ以外を基地局が肩代わりするという発想です。

基地局はスマホが直接に接続する機械です。物理的な距離が短いため、遅延がとても短い通信が行えます。普段スマホでつかっている感覚での画面スクロールや文字変換が実現できるでしょう。ユーザインターフェースはリアルタイム性が何より重要です。

写真や動画などのダウンロードを考えてみましょう。皆さんもご経験があるかと思いますが、ネット上で取り交わされる写真や動画の品質は年々向上しており、ファイルサイズは増加の一途です。高品質な動画などは、わずか数分のものでも数100MBレベルに達し、ダウンロードのために長い時間待たされたり、スマホに大容量のストレージが必要になったりと、多大なコストが強いられています。

もしこれらの処理を、スマホ本体でなく、スマホと接続している基地局が担うとどうでしょうか?

無線基地局が頭脳を持ち、そして連携する未来

ダウンロードは基地局とクラウドとの間で行われます。これらを結ぶ回線は、通常は高速な有線回線があてがわれますので、極めて高速にダウンロードが行われます。データの保存も基地局が担いますので、スマホに大容量のストレージは不要です。

スマホの機能を基地局側が担えば、スマホの消費電力も抑制できるようになります。その結果、バッテリの持続時間を延ばすことが出来たり、より小容量のバッテリが適用出来るようになります。スマホ本体も軽量化されます。

ところで、スマホの処理を基地局ではなくてクラウド側が肩代わりすることもできます。しかし、こちらはあまり筋が良いとは言えません。

スマホからクラウドまでは多数のルータやゲートウェイを介して通信が行われます。つまり、大きな遅延が発生します。画面スクロールがワンテンポ遅れたり、文字入力の反応速度が遅くなったりと、いわゆるサクサク感が犠牲になってしまいます。また、クラウドに処理が一極集中するわけですから、データセンターは今よりもさらに巨大になってしまいます。

やはり、スマホをシンクライアント化するならば、クラウドではなく基地局がその機能を肩代わりしたほうが得策のようです。

基地局に頭脳を持たせると、スマホ内の処理だけでなく、クラウド内の処理だって基地局が担うことができます。

基地局に頭脳を持たせる

例えば、閲覧者の多いポータルサイトや天気予報などのwebページ。これらのページはクラウド上にあるwebサーバからそれぞれのスマホへコンテンツを届けています。これらを基地局が担うとどうでしょうか?スマホに一番近い場所にwebサーバがあるわけですから、スマホの画面で各コンテンツを表示するまでの応答時間や、コンテンツのダウンロード速度が格段に向上します。ページ閲覧のサクサク感は大幅に向上するでしょう。

基地局とクラウドを結ぶ通信回線の混雑も解消できるでしょう。クラウド上にwebサーバがある場合、個々のスマホからwebサーバまでを結ぶ通信回線が、一台のスマホのために占有されます。Webサーバ機能を基地局に担わせれば、一台のスマホが占有する回線はこのスマホと基地局の間の無線回線のみで済み、インターネット全体の通信トラフィックを低減させることができます。

モバイルトラフィックと呼ばれる、スマホやタブレット等が発する通信トラフィックは年20%前後で増加しているそうです。モバイルトラフィックの増加は、バックボーンネットワークの負荷を高めて通信の安定性を阻害したり、通信コストの増大につながります。クラウド上で提供される種々のサービスを基地局に担わせることが出来れば、これらの問題を緩和できます。

そうそう、流行のAIに関しても、推論処理部分であればクラウドで行わなくとも基地局内のコンピュータで済ませることができるでしょう。

無線基地局が頭脳を持ち、そして連携する未来

空間内に分散配置された基地局は、それぞれはごく小規模なコンピュータですが、これらが連携することによって、クラウドとはまた異なる巨大なコンピューティング基盤を形成します。スマホとクラウドの中間に位置する新しいコンピューティング基盤です。各基地局の消費電力は僅少ですから、小型の太陽光発電や風力発電によって賄うことも不可能ではないでしょう。

また、この新しいコンピューティング基盤は、それを構成する各基地局が設置された場所の情報とも連携できる点が特徴です。

端末の位置検出のための基盤として活用できたり、場所に応じたコンテンツ配信プラットフォームとして活用できたりするでしょう。スマホとクラウドだけでは実現できないサービスが提供できるようになります。

基地局がコンピューティング基盤を兼ねるという発想は、旧来からのCDN(Contents Delivery Network)の進化の先にあるエッジコンピューティングやMEC(Multi-access Edge Computing)といった構想とも符合します。これらの必要性は、スマホの大型化とデータセンターの巨大化を見ていると、今後ますます増していくと思います。

    

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。