いきなりですが、みなさん、
の答えは何だと思いますか?
無限に1と―1を繰り返す、級数の和についての問題です。 足す項を少しずつ増やしながら結果を考えてみましょう。
1-1=0
1-1+1=1
1-1+1-1=0
1-1+1-1+1=1
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うーん、困りました。
これでは永遠に、1と0を繰り返すばかりで、一向にひとつの答えが導き出せません。
このとても単純な問題への明快な答えを得るためには、「無限」の概念について、少し深く考えてみる必要がありそうです。
ここで別の質問。
世の中にあるすべての偶数(2,4,6,8・・・)の個数と、すべての自然数(1,2,3,4・・・)の個数、さて、どちらの個数が多いでしょうか?
常識で考えると、当然、自然数のほうが多いと思いますよね?
いやいや、待てよ・・・、両方とも無数にあるわけだし、なんかしっくりこない・・・
よくわからないので、実験をやってみたいと思います。
それぞれ異なる偶数の番号を書いた無数のピンポン玉を袋Aに、それぞれ異なる自然数の番号を書いた無数のピンポン玉を袋Bにいれます。
もちろん、袋Aと袋B、両方とも無限に大きなサイズの袋を用意しなければなりませんので、頭の中だけで想像してください(笑)
袋Aと袋Bの重さを天秤にかけて比較すれば、偶数と自然数、どちらのほうが個数が多いかを知ることができますね。
さて、どちらの袋が重いでしょうか?
うーん、頭の中で想像しなければならないので、まだイマイチよくわかりません。
では、こうしましょう。
空の袋Aと空の袋Bを両方天秤にかけ、それぞれ1個ずつ数字の書かれたピンポン玉を同時に入れていきます。
こうすれば、どちらの個数が多いか、直ぐにわかりますね!
ではまず、偶数の一番小さな値2と自然数の一番小さな値1が書かれたピンポン玉を、それぞれ袋Aと袋Bに入れてみることにします。
はい、天秤は釣り合ったままですね。
次に、ピンポン玉#4とピンポン玉#2をそれぞれ袋Aと袋Bにいれます。
そうです、天秤は釣り合ったままですね。
以下、続けていきます。
ピンポン玉#6→袋Aに、ピンポン玉#3→袋Bに入れました。釣り合ったまま。
ピンポン玉#8→袋Aに、ピンポン玉#4→袋Bに入れました。釣り合ったまま。
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ピンポン玉#100→袋Aに、ピンポン玉#50→袋Bに入れました。釣り合ったまま。
うーん、まだ釣り合ったままです。続けます。
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ピンポン玉#1000→袋Aに、ピンポン玉#500→袋Bに入れました。
ずっと釣り合ったままです。
いい加減疲れました。
もうお分かりのとおり、袋Aと袋Bは永遠に釣り合ったままでしょう。
ということは、
すべての偶数の個数とすべての自然数の個数は「同じ」
ということになります。
不思議だと思いませんか?
自然数は偶数と奇数の集まりですから、常識で考えれば、偶数の個数より自然数の個数の方が多いに決まってます。
しかし、すべての偶数の個数とすべての自然数の個数は、実は同じなのです。
これは無限という概念をより正確に理解する上で、とても重要な気づきを我々に与えてくれます。
最初の問題に戻りましょう。
1-1+1-1+1-1+・・・=?
先ほどの天秤に倣って、1と書いたピンポン玉を袋A、-1と書いたピンポン玉を袋Bにいれます。
どちらが重いかは、もう皆さんお分かりですよね?
そう、天秤は釣り合います。
1と書かれたピンポン玉の総数と、-1と書かれたピンポン玉の総数は同じです。
このことは、つまり、袋Aの中の1と書かれたある一個のピンポン玉に対して、袋Bの中に―1と書かれたある一個のピンポン玉が、それぞれ一対一の関係で存在することを意味します。
そこで「各々の1」とそれに対応する「―1」をグループで括ってみます。
1-1+1-1+1-1+・・・
=(1-1)+(1-1)+(1-1)+・・・
=0+0+0+・・・
=0
という答えが導かれます。
この話は、私が大学3年生を対象にした通信方式という科目の第一回目の講義で必ず取り上げた話題です。
変復調技術を中心とする昔ながらの通信技術は、「=数学」であると言っても過言ではありません。
解析学や線形代数学、確率統計学といった数学的概念を駆使して先人たちが作り上げてきた、とても整った洗練された技術体系(=枯れた技術とも言います😅)であると言えます。
通信技術は、工学の一部として扱われていることが一般的ですが、核となる要素技術は、そのほとんどは天才的な数学者達によって形作られてきました。
教科書に書いてある通りのことを応用するのはそれほど困難なことではありません。
しかし、原理をより深く理解できたときに、はじめて見えてくる「美しさ」や「驚き」に、私は何度も感動を覚えました。
このブログでは、今後、先人たちが築き上げてきた、通信技術に関わるいくつかの美しい技術や概念を出来る限り分かり易く解説してみたいと考えています。
今回の「無限」の話は、「数」というものが、人間の素晴らしい頭脳が描き出した「単なる抽象」にすぎないということを象徴する一つのお話として紹介しました。
皆様の記憶の片隅にでも置いていただければ嬉しく思います!
著者
PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩
NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。