前回は、スモールセルが今後は必須になっていく、というお話をしました。
スモールセルとは、狭いカバーエリアの基地局を高密度に配置していくモバイル通信システムの構築手法です。
ところで、「小さい」、「大きい」は相対的な表現です。

「小さい」、「大きい」は相対的な表現です。

小さいと一言で言っても、様々な基準があります。

スモールセルのことを指す別の表現として、マイクロセル、ピコセル、フェムトセルという言葉があります。
時代により、各表現の使われ方も変わってきましたが、現在はピコセルという表現が主流になってきています。
フェムトセルはスポット的に用いられる超小型の特殊な基地局として少し違ったニュアンスで用いられています。
感の鋭い読者の方はお気づきかもしれませんが、わが社の社名である「ピコセラ」は、このピコセルにちなんで名づけたものです。
picocellで形成されたセルラーシステムがpicocellular(ピコセルラ)。
日本人にはちょっと発音しにくいので、短縮してpicocela(ピコセラ)という社名を作りました。

2008年の創業時にこれからはスモールセルの時代だ!と予見してこの名前を付けたのでした。
法人向けのメッシュWi-Fiをやっている会社なのに、おかしな名前だなと感じる読者の方もいるでしょう。
しかし、創業者である私が目指してきたのは、常に、スモールセルの普及、なのです。
ピコセラのメッシュWi-Fi技術は、スモールセルを敷設する際にかかる敷設コスト、その多くはLANケーブル配線工事なのですが、これを削減するための一手段であるにすぎません。

PicoCELAのメッシュWi-Fiによって、LANケーブルの配線を大幅に減らして、ずいぶん楽にスモールセルを設置できるようになりました。
しかし、スモールセルをもっとスムーズに普及させるための技術課題は他にもあります。

スモールセルをもっとスムーズに普及させるための技術課題は他にもあります。

そう、もう一つの「線」である電源ケーブルです。

長時間駆動できるバッテリ内蔵のスモールセル基地局が実現できれば、それこそ革命的な変化が期待できるでしょう。

例えば、バッテリ駆動で3年間持つスモールセル基地局が実現できれば、もはやモバイル通信インフラは「消耗品」として扱えるようになります。
電池が切れれば、新しいスモールセル基地局に置き換えればよいだけ。
もちろん、回収したスモールセル基地局は電池交換して、また再利用します。
現代の蓄電技術では、ブロードバンドトラフィックを捌ける能力を持ったスモールセル基地局を、例えば3年間維持させるためには巨大なバッテリが必要です。

一例を具体的な数字を交えて説明します。
当社の製品であるPCWL-0400の平均消費電力は10Wほど。
これを3年間、電池駆動しようとすると、3年 x 365日 x 24時間 x 10W で、だいたい300kWHのバッテリーが必要です。
ボルボ社が発表した電気トラックに搭載したリチウムイオン電池と同じくらいの容量です。
300kwHのリチウムイオン電池の重量は、何と1.5トンくらいになるそうです。
つまり、手のひらに載る小さなスモールセル基地局ですら、長期間、電池のみで駆動しようとすると、現代のバッテリ技術では、こんなに大きなバッテリを必要とするのです。

最近注目を集めている水素は高いエネルギー密度を有しており、300kwHのエネルギーを、わずか質量20kg、体積200Lの水素で賄える計算になります。(エネルギー変換効率も考慮に入れてます)

リチウムイオン電池に比べるとずいぶん小さいですね!

リチウムイオン電池に比べるとずいぶん小さいですね!

しかし、水素は爆発の危険がありますから、頑丈な容器に収める必要があります。
それに水素から肝心の電気を生成するための周辺装置も必要です。
これらを含めると、やはり大きな設備になってしまいます。
手のひらに載るほどの大きさのスモールセル基地局と組み合わせるのは不釣り合いです。
自家発電や電力を回収する技術、いわゆるエネルギーハーベスティング技術を組み合わせれば、必要なバッテリ容量を減らせるでしょう。

しかし、現在活用できる、そこそこのエネルギーを取り出せる自家発電技術は、太陽光発電や風力発電に限定されます。
太陽光は光源が確保できなければなりません。高々10Wであっても安定した電力回収のためにはそれなりに面積の大きな太陽光パネルが必要です。 風力発電は、低周波騒音などの公害を生むとされており、これもあまり現実的ではないでしょう。

以上のように、残念ながら、LANケーブルばかりか電源ケーブルも不要なスモールセル基地局の実現は、今この瞬間にはちょっと難しそうです。
しかし、電気自動車の普及に合わせて、バッテリー技術、燃料電池技術、発電技術は急速に進化しています。

これらのテクノロジーの発展によって、電源すらも不要なスモールセルインフラは近い将来、必ず実現できると確信しています。

これらのテクノロジーの発展によって、電源すらも不要なスモールセルインフラは近い将来、必ず実現できると確信しています。

5Gの普及へ向けて、モバイル通信の世界ではピコセル(picocell)という言葉がとても頻繁に使われています。
ぜひ、ピコセルという言葉に遭遇したら、ピコセラのことを思い出してくださいね!
ということで、今回はここまで。

    

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。