本ブログではこれまで複数回に渡りエッジコンピューティングの可能性について取り上げてきました。

第22回では、スマホの処理をエッジコンピュータを搭載した無線基地局が肩代わりすることで、より小型でバッテリーの持ちが良いスマホが実現できる可能性を指摘しました。第29回では普及が進むスマホへのAIチップの搭載が消費電力をさらに増大させ、その結果、スマホのバッテリー持続時間の問題をより悪化させることについて警鐘を鳴らしました。さらに第30回では、実際にAIチップを当社製のメッシュWi-Fiエッジコンピュータに実装し、簡単な動作確認を行いました。

これまでは主にスマホのバッテリー問題に焦点を当てて、エッジコンピューティングがどう活かされるかを書いてきました。飛行機や新幹線の車内でモバイルバッテリーが発火する事故が増えています。スマホの高機能化・高性能化により大電力を消費するパーソナルデバイスを人々が常に持ち歩く時代になりました。スマホ内臓バッテリーでは容量が足りず、多くの人々がモバイルバッテリーも一緒に持ち歩いています。しかし、バッテリーはエネルギーの塊であることを忘れてはなりません。発火や爆発などの危険性を常に意識しておく必要があります。スマホのバッテリー消費を減らすことが出来れば人々が持ち歩く「エネルギー」も減らすことができます。エッジコンピュータがスマホの処理の一部を代行して処理する手法は有効な策の一つだと言えるでしょう。

ところで、エッジコンピューティングがもたらす恩恵はバッテリー問題の解決ばかりではありません。

低遅延性はエッジコンピューティングがクラウドコンピューティングに勝る大きな特徴です。

エッジコンピューティングはデータの近くで種々の処理を行うため、低遅延で結果をフィードバック出来ます。リアルタイム性が要求されるサービスに対して有効です。

例えば、搬送ロボットの制御。一般的には搬送ロボット自身が周囲の様子をカメラやLIDAR等を使って認識し、障害物を回避するように自律的に移動します。エッジコンピュータを活用すると、このような搬送ロボットの移動制御機能をロボット自身ではなくエッジコンピュータ上に実装することができます。これによって、ロボットの消費電力が抑制されて小型のバッテリーが搭載可能となり、積載物の最大重量をより大きくすることができます。同じ処理をクラウド上で行おうとすると制御遅延や揺らぎ量が増大し、安定したロボットの制御は困難であると考えられます。

メッシュWi-Fiによって動き回るロボットに対してより広範囲にWi-Fi電波を届けると同時に、各メッシュWi-Fiに搭載したエッジコンピュータを使ってロボットの移動制御もできるのです。

自律移動の搬送ロボットと、エッジコンピュータが移動制御をつかさどる搬送ロボットの違い

通信の高速性もエッジコンピューティングの特徴と言えるでしょう。

例えば、カメラの映像をクラウドサーバへ伝送し、保存しようとすると、その途中でインターネット回線を経由しなければならず、様々な要因でスループットの制限を受けます。エッジサーバに保存すればローカルエリア内の通信で済むためより高速でアップロードが行えます。端末との間で大量のデータをやり取りしなければならない用途にエッジコンピューティングは向いています。

セキュリティについても、データをエッジ内に留めることが出来るので、クラウドに比べて外部攻撃等からのリスクを低減することが出来ると考えられます。

以上のように、エッジコンピューティングは、その特徴である低遅延性、高速性、高セキュリティ性により、クラウド一辺倒で進化してきたネットサービスに新たな進化の軸をもたらす革新的テーマであると言えます。

PicoCELAは、Wi-Fi空間を端末とインターネットとの単なる橋渡し役から解き放ち、様々な付加価値を提供する高付加価値空間へと変貌させるべく、メッシュWi-Fiエッジコンピューティングという新分野を開拓していきたいと思います。

    

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。