このような防犯・監視カメラを広域かつ多数設置する際にはPoE(power over ethernet)給電機能を搭載したハブ(PoEハブ)を活用し、各カメラへLANケーブルのみで給電とデータ通信回線の確保を行うことが一般的です。
多数のカメラを設置する場合は複数のPoEハブが必要となる場合があります。PoEハブは、複数の負荷デバイス(カメラやWi-Fi APなど)への電力供給を行う高出力電源ボックスなので、外部給電が必ず必要です。言い換えるならば、PoEハブへの給電のためにPoEは使えないという事です。一方で、PoEハブ間で情報信号の送受は必要ですから、PoEハブ間のLANケーブル配線は必要になります。
多数の防犯・監視カメラを広範囲なエリアに設置する場合には、複数のPoEハブを空間に分散配置します。PoEハブ間が100mを超えるようなケースでは各PoEハブ同士を繋ぐケーブル敷設の課題に取り組まなければなりません。なぜなら、一般的なツイストペア型の金属製LANケーブルの配線長は基本的に100mが限界だからです。中継ハブや光ケーブルを活用して長距離中継しなければなりません(注1)。 光ケーブルを用いてPoEハブ間を接続する場合について、図1にその一例を描いてみました。
注1:ハブにSFPポートがない場合にはEth/光変換を行うメディアコンバータも追加で必要になります

図1 PoEハブを活用した場合のカメラ、IoT GW、Edge ComputerおよびWi-Fi APが混在する情報通信システムの構成例。PoEハブ同士は100m以上離れており、光ケーブルを用いてデータ信号の中継を行っている。
光ケーブルはより遠方まで配線が可能ですが、広域の防犯・監視カメラ網を構築する場合などでは、ケーブル配線そのものが困難である場合があります。例えば、景観上の理由から地下埋設が要請されて大きな敷設コストが発生する場合や、公道を隔てた離れの局舎内にPoEハブを設置しなければならずそもそも配線不可能な場合などです。このような課題は、負荷デバイスの設置台数が多ければ多い程、設置するエリアが広ければ広い程、より顕在化しやすくなります。
そこで、PoEハブ同士をPicoCELAの無線バックホールでブリッジしてはどうでしょう?
PicoCELAのメッシュWi-FiエッジコンピュータPCWLシリーズの2つあるイーサポートのうちのダウンリンク側ポートには、有線LANを介して種々の負荷デバイスを繋ぐことが出来ます。ハブを介すれば複数の負荷デバイスを同時に有線LAN経由で接続することも可能です。もちろん、PoEハブを用いれば、LANケーブルを介して各負荷デバイスへ給電も可能です(※注2)。
図1のネットワーク構成の場合に、PCWLを活用し、PoEハブを無線バックホールによりブリッジした場合の構成図を以下に示します。
注2:PCWL-0500/0510/0530EシリーズのPoE受電機能はeth-upポートのみ対応しているため、PCWLへのPoE給電はコアノードのみ可能です。ブランチノードへの給電はACアダプタを用いてください。いずれの製品もPoE+規格準拠となりますが、PCWL-0500でUSBポートに負荷デバイスを接続する場合にのみPoE++規格による給電を行ってください。

図2 PicoCELAのメッシュWi-Fiを活用した場合のカメラ、IoT GW、Edge ComputerおよびWi-Fi APが混在する情報通信システムの構成例。オプションの指向性アンテナを適用することで、より長距離の中継リンクを確保することが出来る。PoEハブ間のケーブル配線が不要となり、敷設コストの低減や工期の短縮が期待される。
PCWLの無線バックホール機能を活用することで、PoEハブ間をケーブル配線なく無線で繋ぐことができます。PoEハブ間のLAN接続のために地面を掘り返す必要はありません。道路を隔てた離れの局舎への接続も容易です。PoEハブ間が100mを超えるような場合でも、環境条件がよければ、オプションの指向性アンテナを活用することで余裕を持って繋ぐことができます。
実験してみましょう。
今回は2台のPoEハブを用い、両者間を2台のPCWL-0510を用いてブリッジします。PCWL-0510のAP機能はオフにし、無線バックホールのみを用います。各PoEスイッチには2台のカメラと1台の他社製Wi-Fiアクセスポイントを接続します。コアモードのPCWL-0510、カメラおよびWi-Fiアクセスポイントは、すべてPoEによる給電を行います。以下に構成図を示します。

図3 PoEハブの無線バックホールとしてPCWLを利用した場合の実験構成図
各PCWL-0510には、オプションの指向性アンテナを4枚、それぞれに取り付けます。実験機材のセットアップ写真を次に示します。

写真1 ホストサイト側(コアノード側)の実験機材のセットアップ写真。PCWL-0510のバックホールにはオプションの指向性アンテナを4枚取り付けた。PCWL-0510のアクセスポイント機能はオフとした。PCWL-0510、カメラ2台ならびにWi-Fi AP1台はPoE HUBを介して給電される。パワーサプライにはハンディ型の高出力バッテリを活用した。

写真2 リモートサイト側(ブランチノード側)の実験機材のセットアップ写真
長距離の見通し空間が確保できる河川敷で実験を行いました。2台のPCWL-0510間の距離は300mとしました。バックホール回線は5.6GHz帯、40MHz帯域幅のチャネルを割り当てました。PCWL-0510のバックホール回線の実測スループットは約300Mbpsでした。
ホストサイトのPCWLにPoEハブならびにLANケーブル経由でモニタリング用のPCを接続し、4台のカメラ映像を同時に確認します。H.264でエンコーディングされたHDクオリティの4つの映像が安定して伝送されることを確認できました。

写真3 ホストサイト側とリモートサイト側で撮影されたカメラ映像のスナップショット
4台のカメラ全体で約17Mbpsのトラフィック量でした。バックホール回線は約300Mbpsの帯域が確保できていましたので、6%ほどの回線占有率です。まだまだ余裕があります。
次に、カメラ映像を伝送しつつ、PoEハブに接続した他社製Wi-Fi APにスマホを接続してみました。ホストサイト側とリモートサイト側にそれぞれ接続したスマホ同士で100Mbpsを超える安定した通信が行えることを確認しました。
以上、PCWLの無線バックホール機能を活用し、これとPoEハブとを組み合わせる構成についてご紹介しました。本構成により、広域防犯・監視カメラ網構築の手間を減らすことができます。各負荷デバイスへの電源供給はLANケーブルで兼ねることができますので、設置の手間を削減できます。PoEハブに接続可能な負荷デバイスは、防犯・監視カメラのみならずWi-FiアクセスポイントやIoTゲートウェイなど、PoE受電に対応した種々のIoT機器も対象となります。広域IoTシステム構築の手間やコストに頭を抱えておられる方は、PCWLの無線バックホール機能とPoEハブとの連携も選択肢の一つとして是非ご検討ください。
著者

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩
NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。