Over The Airアップデート

先日、私が所有する車へリコールが発生したという連絡がカーディーラーから入り、車を持っていきました。どの部品がリコールなのかと聞いたら、何と、ソフトウェアのリコールだそうです。車間距離制御のプログラムでごくまれに発生する問題を解決するためのリコールでした。ディーラーへの移動時間やソフトウェアアップデートの作業時間で、結局、その日は午後が完全につぶれてしまいました。

スマホやタブレットは、携帯電話の電波を使ったOSアップデートが可能です。これらは、OTA(Over The Air)アップデートと呼ばれています。有線LANを介したダウンロードやフラッシュメモリ、あるいはCD-ROMなどを使った昔ながらのソフトウェアアップデートに代わって、電波経由で機器が勝手にアップデートする処理のことを意味します。洒落た表現ですね。私のお気に入りの言葉の一つです。

今どきの自動車はソフトウェアの塊と言ってもよいでしょう。自動車ソフトウェアのアップデートもOTAで実現できれば、わざわざディーラーへ車を持ち込む必要はありません。

OTAアップデートはスマホOSアップデート並みかそれ以上

EV界をけん引するTesla車のOTAアップデートについて、一回のアップデートでどれくらいのサイズのファイルがやり取りされるかをネットで調べたところ、数百MB~数GBとのことでした。スマホのOSアップデート並みかそれ以上か。やはり大きいですね。

例えば、1回のOTAアップデートに2GBのファイルがダウンロードされるとしましょう。月2回、アップデートが実施されるとすれば、それだけで4GBのデータが消費されます。

自動車のOTA(Over The Air)アップデートがもたらす新しい通信インフラのニーズ

日本におけるスマホ契約の平均月間データ使用量は9GB程度とされていますので、自動車のOTAアップデートを携帯電話回線で行うと、それだけで約半分の「ギガ」を使い果たしてしまう計算になります。

さすがにこれだと通信費が大変なので、多くのOTAアップデート利用者は自宅の有線ブロードバンド回線に通じたWi-Fi電波を活用してOTAアップデートを行う場合がほとんどだと思います。

しかし、集合住宅の駐車場などでは各個人契約のWi-Fi回線を確保することは困難でしょうし、駐車場付きの戸建てであっても、部屋の中こそWi-Fi電波は良好でも、駐車場までは届かないというケースが多いでしょう。

戸建ての場合は、最近普及が進んできた家庭用の簡易メッシュ機能が付いたWi-Fiアクセスポイントを活用して屋外の駐車場までなんとか電波を届けることが出来るかもしれませんが、工事が大変、また壁を隔てると電波は急激に減衰するため思うようなエリア拡張が行えない可能性があります。

自動車のOTAアップデートのための通信インフラ問題は今後クローズアップされてくるのではないかと私は予想しています。

ショッピングセンターの駐車場でOTAアップデート

ショッピングセンターの駐車場でOTAアップデート

例えば、ショッピングセンターの駐車場に密で連続なWi-Fi空間を構築しておけば、買い物をしている間にOTAアップデートを済ませることができるようになります。このような付加サービスが、集客の一助になるかもしれません。

街の有料駐車場が、OTAアップデートのためのフリーWi-Fiスペースも一緒に提供すれば、その駐車場の付加価値は増大するでしょう。

集合住宅の駐車場に、住民共用のWi-Fi空間を敷設するニーズも今後は増えてくるかもしれません。

自動運転技術の進化などに押されて自動車のソフトウェア化はどんどん進んでおり、OTAはますます今後普及が進むことは間違いありません。

自動車業界を取り巻く界隈では、EVの普及に合わせて「充電設備の整備」はよく取りざたされますが、これからはOTAアップデートのための「通信インフラの整備」も取り上げられるようになるかもしれませんね。

    

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。