起きている大半の時間をインターネットに接続する社会

電車に乗っていつも感じるのは、スマホを触っている人の実に多いこと。職業柄、周囲でどれくらいの人がスマホを触っているかをよくカウントします。毎回ほぼ確実に9割以上の人がスマホを触っています。

スマホを触る=インターネットに接続しているということです。正確な統計を調べているわけではありませんが、現代人は、特に若い世代ほど、起きている時間の大半をインターネットに接続して過ごしているのではないでしょうか?

起きている大半の時間をインターネットに接続する社会

モバイル通信はインフラとしての地位を確立した

モバイル通信はインフラとしての地位を確立した

モバイル通信は社会基盤として、電気・水道・ガスなどと並ぶ地位をすでに確立していると言っても過言ではないでしょう。

このような社会的に重要なインフラですから、何か事故が起こると、ニュースになります。今やモバイル通信は、スマホのためだけではなく、モノをインターネットに接続するための通信網としてもどんどんその活用の場を広げています。今後ますます安定性が問われるでしょう。

翻って、現代のモバイル通信は万全と言えるでしょうか?

通信回線の安定運用に100%保証というのはありません

モバイル通信は無線によるインターネット通信ですから、電波環境による受信電力不足や干渉による妨害を受けます。有線インターネットとの違いはこの2点にあります。もちろん、有線インターネットと同様にゲートウェイ回線の不通や機器の故障による事故もあります。

有線であろうが無線であろうが、通信回線の安定運用に100%保証というのはありません。機器の不具合などの事故でなくても、多くの通信トラフィックが流れ、回線が混雑すると輻輳が発生します。輻輳の発生確率を低くするためには通信帯域を広く確保する必要があります。有線であれば光ファイバの敷設量を増やす、無線であればアンテナあるいは基地局を増やすことが根本的な対策です。いずれも最終的には通信コストに跳ね返ってきますから、許されるコストのもとでいかに障害の発生を低く抑えるかが技術の鍵となるわけです。

なお、無線の場合は周波数を増やすとことがもっとも効果的ですが、残念ながら人類に与えられた唯一の資源である周波数は限りがありますので、この手法は安定運用の目的には使えません。

通信の安定性を高める、つまり不通状態をできる限り減らすためには、もう一つ、古くから使われている有効な手段があります。

それは、万が一に備え、複数の通信サービスを使えるように冗長化しておく、という手法です。

通信の安定性が社会全体で求められるようになる

例えば、無線インターネットの場合は、メインをあるモバイルキャリアのセルラー回線とし、バックアップに別キャリアのセルラー回線を用いる、このような手法です。バックアップ回線としてWi-Fiを用いることもできます。

通信回線の冗長化はミッションクリティカルな業務用の通信では当たり前のように行われてきた手法です。

無線インターネット通信の重要性がますます増大していく今後は、より高いレベルの通信の安定性が社会全体で求められるようになるでしょう。

ワイヤレスファースト時代に社会が必要とするモバイル通信の安定性を、各通信キャリア単独で担保することは困難です。通信キャリア横断の連携、あるいは通信キャリア以外の様々な組織や主体がモバイル通信インフラの一部を自ら提供し、これらが連携しあうことで、より高い安定性を担保する仕組みが必要となってくるでしょう。

無線通信環境も施設付帯の設備に据える

本ブログの冒頭で、モバイル通信は今や社会インフラの一部と表現しました。
みなさん、スマホを外出先で充電する際にはオフィスやカフェのコンセントを使いますよね。外出先で手を洗ったり、トイレで水を使う場合には施設付帯の上下水道設備が使われます。社会インフラとは、施設に付帯する設備、と捉えることもできそうです。

そう考えると、これからはモバイル通信環境も施設に付帯する設備の一つであるべき、ではないでしょうか?

電気・水道・ガスだけではなく、モバイル通信設備も社会インフラを支える意味においてとても重要になってくるのではないでしょうか?

あるいは、モバイル通信設備の有無が、その施設の価値を高めるとも言えるかもしれません。

各施設に独自のモバイル通信網が構築されていれば、万が一、セルラーの電波が不安定であっても、バックアップ回線となります。通信安定性を重視する事業者やIoT通信にとって、このような無線環境のバックアップ機能を有した施設はより魅力のある施設、と言えるでしょう。Wi-Fiであれば、自営網として運用する限りにおいては認可不要、免許不要で設置が出来ます。

無線通信環境も施設付帯の設備に据える

名古屋市では、大規模ビルやマンションなどの開発に際して、オープンスペースを敷地内に設けそこにフリーWi-Fiを設営すれば建物の容積率が緩和されるそうです。
参考記事:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC175MU0X10C23A4000000/

行政側が施設の価値を高めるポイントの一つとしてモバイル通信設備に着目しているのです。とても興味深い動向です。

モバイル通信網をいかに安定して提供するかは、今後大きな社会課題

社会インフラとして認知されつつあるモバイル通信網をいかに安定して提供するかは、今後大きな社会課題として注目されるでしょう。施設側がその価値の一環として、Wi-Fiなどのモバイル通信設備を自ら有することは、バックアップ回線としての役割も担うことを意味します。つまり社会課題解決へ貢献することを意味します。施設独自のモバイル通信設備が、電気やガス、水道の設備と同様に扱われる日はそう遠くない気がします。

    

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。