久しぶりのブログ更新です。コロナ禍の中、様々な社内改革を敢行し、多忙を極めていたこともあり、すっかり時間が空いてしまいました。

ローカル5Gの課題は、導入コストにある

5Gの導入が進んでいます。5Gの特徴の一つに、ローカル5Gと称される自営5G網があります。工場などで、5Gの電波を使いながら、Wi-Fiのように自営網として運用できることが特徴です。

自営のセルラー通信網として、真っ先に思い出すのは、20年余り前に話題となった地域Wi-MAXです。Wi-MAXは様々な経緯を経て生まれたセルラー通信規格で、わが国ではいまでもサービスが提供されていますが、世界的にみるとLTEやその後継の5Gに押されてしまい、残念ながら主流の規格からは外れてしまいました。

ローカル5Gは、それが導入される個々のエリア限定で専用の周波数帯域が排他的に利用できますので、高い通信品質を確保できるとされています。これに対して、Wi-Fiは、個々のエリアによらず、割り当てられた広い周波数帯域を自由に使うことができる反面、他からの干渉を受けやすいという性質を持っています。

課題は、導入コスト。現状では、Wi-Fiに比べて一桁、下手をすると二桁以上の導入コストが発生します。

米国ではSAS(Spectrum Access System)によって周波数を割り当てている

米国では、ローカル5Gに類似する通信システムとしてCBRS(Citizens Broadband Radio Service、市民ブロードバンドサービス)があります。CBRSに割り当てられた3.5GHz帯はもともと米軍に割り当てられている周波数ですが、その一部を一般へ開放し、5G規格(ならびにLTE)に沿った通信方式によって周波数共用しようという技術です。CBRSの周波数共用の仕組みは複雑ですが、大まかに捉えると、SAS(Spectrum Access System)と呼ばれるシステムがあり、ある場所において割り当てる周波数を、SASが随時指示するものの中から動的に割り当てるような仕組みです。

SAS管理者はFCC(Federal Communication Commission、米連邦通信委員会。通信・放送に関する振興や規制を担う。日本では総務省がこの役割を担う)の認可を得なければなりません。その管理者にはGoogleやSONYといった企業が名を連ねています。注目すべきは、この仕組みを活用し、AWS(Amazon)が提供しようとしている「AWS Private 5G」です。

「AWS Private 5G」の画期的な仕組み

AWSのクラウド上にコアネットワークが構築されており、利用者は複雑で費用の掛かるコアネットワークの構築が不要になります。ユーザがAWS Private 5Gと契約すると、Wi-Fiルータのごとき基地局装置が送られてきます。これを自宅や会社のインターネット回線へLANケーブルで接続すれば、いとも簡単に5Gのエリアを構築することができるという代物なのです。スマートフォンやタブレット、PCなどのユーザ端末にAWSから送られてくるSIMカードを挿せば、これらの端末でプライベートな5Gネットワークを利用することができるのです。

これはかなり画期的と言えます。なにしろ、5GのエリアをWi-Fi並みに簡易に構築できるのですから!しかし、AWS Private 5GのようなCBRSバンドを活用した5G通信インフラで私が最も注目したい点は、"高速性や低遅延性に頼らない5G"、という割り切りです。

高速・低遅延よりも利用目的重視

5G推進の動機は、eMBB(enhanced Mobile Broadband)やURLLC (Ultra-Reliable and Low Latency Communications)といった言葉で飾られているように、高速性と低遅延性の実現にあります。現状の5Gサービスのキラーアプリは「スピードテスト」と揶揄されるくらい、5G=高速、という視点で注目されてきました。

しかし、CBRSの推進業界団体である OnGoAllianceのサイトをみると、eMBBやURLLCといった言葉はほとんど出てきません。高速性や低遅延性と言った物理的な性能の良さを重視するのではなく、あくまで利用目的重視のテーラーメイドな無線空間を、5G(あるいはLTE)の規格を活用して実現しよう、というミッションを定義しています。とても地に足の着いたミッションだと思います。

公衆網と自営網の使い分けが肝要になる

CBRSやローカル5Gのような無線技術は、自営無線に新しい態様を加えるという点でとても魅力的です。これまではWi-Fiしか選択肢がなかったところに、Wi-Fiとは別の周波数の新たな電波を利用できる様になるわけですから。

Wi-Fiやローカル5G、CBRSなどの自営ブロードバンド無線通信は、出来る限り自分の敷地内に電波を抑え込むことを設計思想としています。こうすることで、周辺への電波干渉を抑制し、少し離れた別の場所でも同一の周波数を再利用できるようにしているのです。限りある周波数資源を有効利用するための設計思想と言えるでしょう。

したがって、CBRSもローカル 5Gも、一つの基地局がカバーできるエリアは基本的にWi-Fi程度、そうスモールセルです。当社の社名の由来でもあります。各スモールセル基地局はインターネットに接続しなければなりません。LAN配線が大変です。スモールセル普及の課題は、このブログでもかつて取り上げたように、基地局が必要とするLAN配線の敷設コストをいかに削減するかにあります。つまりバックホール問題です。

当社では、スモールセルに適したバックホールの無線化技術を長年、研究開発してきました。
その成果をWi-Fiアクセスポイントと組み合わせて製品に仕立てあげ、市場へ提供しています。
将来はローカル5GやCBRSの基地局とも組み合わせていきたいと考えています。

                    
PCWL-0410
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自営ブロードバンド無線通信は、公衆網にはない特徴を持っています。使い放題であること、一定の通信品質を担保しやすいこと、設備の増設や削減と言った最適化がやりやすいこと、などです。社会のIoT化は今後ますます浸透していくでしょう。公衆網と自営網の使い分けがより繊細に意識されるようになると思います。未来のモバイル通信の姿を考えるうえでは、自営網の発展、公衆網との棲み分けといった視点が重要になってくるかもしれませんね。

    

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。