建築現場や工場、倉庫、多数の支店や店舗を保有しておられる企業様など、PicoCELAを屋内利用されているお客様は多数おられます。
屋内のエンタープライズ市場では、バックホール回線の配線と電源供給をLANケーブルで同時に賄うPoE(Power over Ethernet)が一般的です。

無線メッシュテクノロジーによって自由自在にWi-Fiエリアの拡張・補充が行えるPicoCELAのテクノロジー

PicoCELAが屋内でよく利用されているシーンは、広大な屋内空間を全面的にWi-Fi化したいようなシーンです。その背景として、M2M通信やIndustrial IoT、より広義には様々な業界におけるDX需要の高まりがあります。これらのユースケースでは、密で連続な無線空間の構築が不可欠であり、高い安定性を有した無線メッシュテクノロジーによって自由自在にWi-Fiエリアの拡張・補充が行えるPicoCELAはよく適合します。

このような屋内ユースケースで、通常のAPを用いてWi-Fi空間を構築しようとする場合、PoEハブから各APまでのLANケーブル配線長が数十mに達することがあります。LANケーブルの配線長は規格上、100mが限界であるため、PoEハブから目的のAPまで配線できない場合があります。そうなると、PoEハブをあちこちに増設しなくてはなりません。各PoEハブへは大きな電力の電源供給が必要ですし、PoEハブ間のデータ通信回線(通常は光回線となるでしょう)の敷設も必要となります。導入が大掛かりなものとなってしまいます。

PicoCELAならブランチノード(無線中継回線を介してコアノードと接続されるノード。コアノードとはWAN回線との接続点の役目を担う親玉ゲートウェイノード)への電源さえ確保できれば無線マルチホップ中継によってノード同士が勝手にバックホール回線を形成しますので、LANケーブル配線のわずらわしさから解放されます。

しかし、電源コンセント増設作業は残る・・・

通常、各ブランチノードへはACアダプタ経由で給電します。ACアダプタを接続するための電源コンセントが近くに無い場合は増設が必要です。しかし、電源コンセントの増設は電気工事士の資格保有者が行わねばならない作業ですから、どうしても工事費用がかさんでしまう課題がありました。せっかくPicoCELAでLANケーブル配線を削減できるのですから、電源工事費用もできる限り削減したいですよね?

PCWL-0500シリーズよりPoE受電機能を搭載しました。弊社のこれまでの製品ラインナップでは初めての対応です。

このPoE受電機能を活用すれば、ACアダプタを使わずに、PoEインジェクタとLANケーブルを使って給電ができます。既設の電源コンセントからPoEインジェクタの電源を得て、その場所からAPへLANケーブル配線による給電を行えば、電気工事の資格のみならず、電気通信工事担任者の資格も必要なく電源の配線作業が行えます。工事関連の専門資格が必要ないため、工事作業費用を抑制できる可能性があります。

果たして本当にPoEインジェクタをACアダプタ代わりに使えるのか?・・・実験してみたいと思います。

PoEインジェクタをACアダプタ代わりに使えるのか?

用意した機材は2024年3月より出荷を開始したPCWL-0530E。最大30Wを供給可能なIEEE802.3at規格に準拠したPoE受電に対応しています。(PCWL-0500およびPCWL-0510はIEEE802.3bt規格準拠となります)

今回用いるPoEインジェクターはサンワサプライさんのIEEE802.3at対応の製品です。筐体サイズは130x62x36mm、重さは300g。直流安定化電源回路を内蔵しており、メガネコードを使ってACコンセントに直接つなぐことが出来ます。もちろんPSEマーク取得済みの安心安全な製品です。

写真 PoEインジェクターをACコンセントに繋いだ様子。左奥より、PCWL-0500用の標準ACアダプタ、今回の実験で用いるPoEインジェクタ、PCWL-0530E付属のACアダプタ

写真 PoEインジェクターをACコンセントに繋いだ様子。左奥より、PCWL-0500用の標準ACアダプタ、今回の実験で用いるPoEインジェクタ、PCWL-0530E付属のACアダプタ

このPoEインジェクター、見た目はほぼACアダプターと同じです。違いは、DCケーブルではなく2つのLANポートが搭載されている点。出力LANポートと入力LANポートです。PoEインジェクターの役目は、入力LANポートを介して送受信されるデータパケットを出力LANポートへ中継すると同時に、出力LANポートより給電先のデバイスへLANケーブルを介した電源供給を行うことです。

例えば、入力LANポートにはインターネットにつながったハブを、出力LANポートにはPoE受電機能を備えたAPを、それぞれ別のLANケーブルを介して接続します。当該APにACアダプタは必要なく、データ通信のために使われるLANケーブルを流用して電源供給が行われます。これが本来のPoEインジェクタの使用法です。

今回の実験では、このPoEインジェクターの出力LANポートをブランチノードへの電源供給のため「だけ」に使います。したがって、入力LANポートは利用せずに開放状態のままとします。

実験系全体の構成図は以下の通りです。

図 実験の全体構成図

図 実験の全体構成図

2ホップのリニアトポロジー構成とし、PoEインジェクター給電を適用したのは中間に位置するブランチノードです。当該PCWL-0530EのETH-UPポートとPoEインジェクターの出力LANポートとをLANケーブルで接続し、電源供給を行います。

写真 PoEインジェクターの出力LANポートに電源供給だけのためのLANケーブルを接続。入力LANポートは開放状態のままとする

写真 PoEインジェクターの出力LANポートに電源供給だけのためのLANケーブルを接続。入力LANポートは開放状態のままとする。

使用したLANケーブルは手元にあったCat6E対応の10mのケーブルです。このLANケーブルの他方の端子をPCWL-0530EのETH-UPポートに接続します。

写真 PCWL-0530EのETH-UPポートに電源供給のためのLANケーブルをつなげた様子。PCWL-0530E本体を起立させた状態とするためVESAマウントスタンドを装着した。オプションの屋内用ベントアンテナを使用。
写真 PCWL-0530EのETH-UPポートに電源供給のためのLANケーブルをつなげた様子。PCWL-0530E本体を起立させた状態とするためVESAマウントスタンドを装着した。オプションの屋内用ベントアンテナを使用。

写真 PCWL-0530EのETH-UPポートに電源供給のためのLANケーブルをつなげた様子。PCWL-0530E本体を起立させた状態とするためVESAマウントスタンドを装着した。オプションの屋内用ベントアンテナを使用。※写真を撮影するために、ETH-UPポートは標準のキャップを外したまま撮影

LANケーブルを接続すると、直ちにPCWL-0530Eが起動しました。正しく電源供給が行われていること、中継ノードとして正しく機能することを確認できました。

また、当該PCWL-0530EのETH-DOWNポートにLANケーブルでPCを接続し、有線LANケーブルを介したインターネット接続も試してみましたが、問題なく接続できました。

PoE給電で稼働させたPCWL-0530Eの動作を長期間に渡り観察していますが、現在に至るまでACアダプタを用いた場合とそん色なく、安定した電源供給が行われています。

このように、PoEインジェクターをACアダプター代わりに活用し、LANケーブルをDC給電ケーブルとして用いてPCWLへ電源供給を行うことはどうやら問題なさそうです。

PoEインジェクタ+LANケーブル給電により、既設の電源コンセントを最大限活用!

ところで、上述の通り、LANケーブルは最大100mまで許容できます。

ACアダプターを用いる場合、DCケーブルの延伸は終端電圧の電圧降下を引き起こすためあまり推奨できません。PCWL-0530Eの同梱ACアダプターのDCケーブル長は1.2m、PCWL-0500の標準ACアダプターのそれは1.5mです。一方、LANケーブル給電の場合、一気に100mまで可能となりますので余裕が生まれます。つまり、電源コンセントからより遠方のPCWLにまで電源供給できることを意味します。既設の電源コンセントを活用できるケースが拡大し、引いては電源コンセントの増設工事費用が削減されます。

また、LANケーブル配線工事は、電気工事士・電気通信工事担任者の資格を必要としませんので、この部分の費用も削減できるでしょう。

既設の電源コンセントを最大限活用でき、かつ電源配線コストも抑制できるPoEインジェクタ+LANケーブルによる給電は、PicoCELAシステム導入に係るTCO(Total Cost of Owenership)を抑制する有効な選択肢の一つとなるでしょう。

※ご注意 高圧電線の近辺にLANケーブル配線を行う場合、LANケーブルにノイズが混入し、PoEの動作に異常をきたす恐れがあります。このような環境でのLANケーブル配線工事では必ず専門の業者にご相談の上、進めていただくようお願いします。

    

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。