WRC 2023(World Radiocommunication Conference)が、
4年ぶりに開催
G7サミットや地球サミットに比べて、一般的な注目度はそれほど高くはありませんが、無線通信の国際的な重要事項を決定する会議であるWRC(World Radiocommunication Conference)が、2023/11/20~12/15にかけて4年ぶりに開催されました。
皆さんが生活するうえで、スマホは欠かせないツールになっていると思います。WRCの役割を分かりやすく表現するならば、スマホの通信料や使い勝手を大きく左右しかねないことを議論している会議です。長い歴史のあるとても深刻な会議なのです。3~4年ごとに定期的に開催されており、今回はドバイで開催されました。
本ブログは2023/12/25に執筆しています。会議終了から1週間ほど経過し、WRC-23の様子が無線通信関連の主要な団体やメディアを介して徐々に明らかになってきました。
アッパーバンドと呼ばれる6.425-7.125 GHz帯
本ブログで注目している6GHz帯、特にアッパーバンドと呼ばれる6.425-7.125 GHz帯について、WRC-23でどのような議論がなされたかを少し調べてみました。
この帯域は、前回のWRC 2019において、次回会合すなわち今回のWRC 2023において、5Gや6G等のセルラー向けとして、一部の国(欧州、アフリカ、その他のいくつかの地域)へ開放するかどうかを議論することが決められていました。ライセンスバンドとしてセルラーシステムへ割り当てるべきだとの嘆願活動が同システムの推進団体であるGSMA等を通じて行われていました[3]。
実は、この6GHz帯の扱いについては統一したコンセンサスが形成されていませんでした。中国はライセンスバンドへ割り当て(つまり5G向けに割り当て)、欧州はライセンスバンドとアンライセンスバンドを混在して割り当て、米国は全面的にアンライセンスバンドへ割り当て、といった具合です。米国では、この帯域をWi-Fi利用に認めており、以前のブログで取り上げたように、AFCを活用したSPモードの実証実験をすでに始めています。日本は、米国に追随しつつあるようです。
アンライセンスバンド推進派と、ライセンスバンド推進派でそれなりの議論の応酬が行われたらしく、(アンライセンスバンドへの割り当てを当然ながら主張している)Wi-FiアライアンスのHPでは、少し興奮気味に速報で今回のWRC-23での決定事項に関してメッセージを残していました [1]。
「While deciding to identify the upper 6 GHz spectrum for International Mobile Telecommunications (IMT) in Europe, Africa and a few other countries, the conference adopted an international treaty provision to explicitly recognize that this spectrum is used by wireless access systems such as Wi-Fi. Importantly, the WRC-23 rejected proposals to expand the upper 6 GHz IMT identification to several other countries or to consider such IMT identifications at the next WRC in 2027.」
「同会議は、欧州、アフリカ、その他数カ国における国際移動通信(IMT)用に 6 GHz 帯アッパーバンドを特定することを決定する一方で、この周波数が Wi-Fi などの無線アクセスシステムによって使用されることを明確に認識するための国際条約条項を採択した。重要な点として、WRC-23は、6GHz超のIMT識別を他の数カ国に拡大する提案や、2027年の次回WRCでそのようなIMT識別を検討する提案を否決した。」
ちょっと分かりにくいですね...彼らの思いを私なりに斟酌し、かみ砕いた表現で要約してみました。
「6GHz帯アッパーバンドをセルラー用に割り当てたい国はそれが認められて良かったね。でも、国際的にはWi-Fiに割り当てられることが確認されたからね。これ以上の議論は今後はもう無しで皆さんよろしく!」
・・・こんな感じのニュアンスでしょうか。
ライセンスバンド推進派は巨大通信ベンダーが多く、世界中の政財界に対して強い影響力があります。大々的な嘆願活動を通じてより多くの周波数バンドをライセンスバンドへと移行させたいと考えています。今回のWRC 2023の上記裁定は、Wi-Fiアライアンスならびにアンライセンスバンド化を期待するパーティをきっと安堵させたことでしょう。
セルラー通信とWi-Fiはこの20年間、上手にすみ分けてきたと思います。今後もこのすみ分けは続くでしょう。ケータイ電話の普及、そしてスマホの出現を通じて、無線通信ビジネスは巨額の収益を生む産業となりました。必然的に周波数割り当てに関する利害対立はますます大きくなってきているように思います。
しかし、電波は人類に与えられた唯一の資源であることを忘れてはなりません。一般の人々の利便性を最大化することが何より重要だと思います。
なお、WRCの決定事項は、ITU憲章に基づき、RR(Radio Regulation)として国際ルール化されます。ITU加盟国は、WRCの決定事項に基づいて各国の法令を整備していきます。WRCの詳細については[4]で詳しく解説されていましたので、ご関心がある方はご覧ください。
■今回のブログで参考にしたサイト
[1] https://www.wi-fi.org/news-events/newsroom/wi-fi-alliance-celebrates-the-2023-world-radiocommunication-conference-wrc-23(外部サイト)
[2] https://www.lightreading.com/6g/6ghz-satellites-and-6g-addressed-at-wrc-23#close-modal(外部サイト)
[3] https://www.gsma.com/spectrum/wrc-series/(外部サイト)
[4] https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/10/3/10_206/_pdf(外部PDF)
著者
PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩
NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。