皆さんご承知の通り、政府主導で、携帯電話料金を低減するべく、様々な施策が実施されています。

何しろ携帯電話は今や社会生活に欠かせないライフラインですから、その料金が安くなることは誰にとっても喜ばしいことです。

各通信キャリアが端末当たり平均いくらの売り上げを得ているかを測る指標として、昔から使われてきたものがARPU(Average Revenue Per User)です。

ARPUは厳密には端末当たりの平均売り上げですから通信料を表す指標ではありません。

しかし、大抵のモバイル通信キャリアは、その売り上げのほとんどが通信料によって賄われていますので、ほぼ端末当たりの通信料とみなしてよいでしょう。

国際的に使われている指標ですので、我が国で問題になっている「日本の携帯料金は高い!」の根拠は、他国の通信キャリアのARPUと比較することで相対的に判断することができます。

早速、いくつかの国と比較してみましょう!

通信キャリア ARPU(最新の通貨レートで日本円に換算) 一人当たり名目GDP(最新の通貨レートで日本円に換算) ARPU×12÷(一人当たりGDP)×100 NTTドコモのARPUを1としたときの左値の相対値
日本 NTTドコモ ¥4,680 4323千円 1.3 1.00
(AU) (¥6,500) 4323千円 (1.8) (1.38)
ソフトバンク ¥4,350 4323千円 1.21 0.93
韓国 SKテレコム ¥2,894 3665千円 0.95 0.73
中国 China Mobile ¥907 1054千円 1.03 0.79
台湾 中華電信(Chunghwa Telecom) ¥1,731 2750千円 0.76 0.58
シンガポール Singtel ¥3,440 7104千円 0.58 0.45
タイ AIS ¥951 819千円 1.4 1.08
インドネネシア Telkomsel ¥346 426千円 0.97 0.75
オーストラリア テルストラ(Telstra) ¥4,849 6206千円 0.94 0.72
米国 ATT ¥5,494 6916千円 0.95 0.73
ベライゾン ¥4,615 6916千円 0.8 0.62
T-mobile ¥5,027 6916千円 0.87 0.67
スプリント ¥4,704 6916千円 0.82 0.63
カナダ ロジャースコミュニケーッションズ( ¥4,720 5092千円 1.11 0.85
アルゼンチン テレコムアルゼンチン ¥317 1282千円 0.3 0.23
ブラジル Vivo ¥762 985千円 0.93 0.72
メキシコ テルセル(Telcel) ¥811 1078千円 0.9 0.69
欧州50か国の全体 ¥1,776 2936千円 0.73 0.56
イギリス O2-UK  ¥1,815 4684千円 0.46 0.35
Vodafone UK ¥3,178 4684千円 0.81 0.62
ドイツ テレフォニカドイツ ¥1,200 4743千円 0.3 0.23
ロシア MTS ¥680 1242千円 0.66 0.51
インド ボーダフォンIDEA ¥158 224千円 0.85 0.65
ナイジェリア MTN Nigeria ¥330 224千円 1.77 1.36
セイシェル ¥2,640 1823千円 1.74 1.34
ガボン ¥1,023 904千円 1.36 1.05
コンゴ共和国 ¥594 288千円 2.47 1.90
ケニア ¥506 201千円 3.02 2.32
ザンビア ¥341 165千円 2.48 1.91
ウガンダ ¥308 80千円 4.62 3.55
コンゴ民主共和国 ¥308 54千円 6.84 5.26
タンザニア ¥253 114千円 2.66 2.05
(※注 AUのARPUは非公開であるため、公開されていた1加入者あたりの通信料を参考として表示しました。加入者が複数台の端末を持つ場合があるので高い数値となっていると予想されます。)

通信料金が「高い安い」の評価は相対的です。

5000円の通信料でも、所得の高い人と低い人では感覚が異なります。

国と国の間で通信料を比較する場合も、その国の国力や平均所得などを考慮しなければ正しい比較にはなりません。

そこで、各国の一人当たりGDP(=一人当たりの所得)に対する通信料で比較してみたいと思います。

上の表の黄色で示した列がそれに相当します。

NTTドコモを基準にした相対値が水色で示した列です。

さて、日本はどうかというと・・・うーん、やっぱり他国に比べると少し高いですね。

データが獲得できた範囲では、一人当たりのGDPが日本より高い国で、日本より携帯通信料が高い国はありません。

日本における一般的な家庭(二人以上世帯)の生活消費支出に占める通信費はおおよそ月13,000円。この中には光回線契約など、自宅で使う固定インターネット回線費用も含まれています。

この支出は各家庭で月に発生する保険医療費や教育費とほぼ同じ、教養娯楽費のおおよそ半分といった金額感です。

モバイル通信キャリアは、国を問わず、「いかにARPUを高めるか!」に血眼で取り組んでいます。

多くは民間企業なのですから、企業努力として当然です。

そういう意味において我が国のモバイル通信キャリアはいずれも優秀な企業であると言るでしょう。

日本のモバイル通信環境は間違いなく世界でもトップクラスのカバレッジと品質を提供できていると思います。

一方、「携帯電話の通信料が高い」ことが社会問題になるということは、多くの人々がサービスと対価のバランスに対して不満を感じているということです。

ここは真摯にとらえるべきだと思います。

サンプル数はあまり多くないですが、確かに、私はヨーロッパやアジアの国々でそのような不満をほとんど聞いたことがありません。

安価なサービスプランを提供するMVNO(※)の隆盛をみていると、今の各モバイルキャリアが提供しているサービスは、実は、万人には過剰なのかもしれません。

※Mobile Virtual Network Operator: NTTドコモなどのMNO(Mobile Network Operator)から通信インフラを借りて自前のモバイル通信サービスとして提供してる会社

皆へファーストクラスのサービスが押し付けられている、本当はエコノミークラスで十分なのに!、と感じているユーザが実は非常に多いのかも・・・?

そう考えると、「5Gで100倍のスピード」が、果たして本当に皆さん欲している次世代モバイルの姿なのでしょうか?

いや、「4Gと同じスピードで十分だから、通信料金を半分にしてくれ」、のほうが実はよほど国民にとっては嬉しいことではないでしょうか?

通信料金を半分にするための技術は決して簡単ではありません。技術のみならず、様々な方面での斬新な発想が必要です。

こういった視点でモバイル通信の未来を語ることが、今、必要なのではないでしょうか?

直線連続的なスピード競争からはいい加減に卒業すべきだと思います。

通信速度はそのままでも料金を半分あるいはそれ以下にする技術や仕組みが実現できれば、それはモバイル通信分野における、誉ある「disruptive innovation(破壊的イノベーション)」と言えるのではないでしょうか。

出典
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_mr.pdf     

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。