無線メッシュネットワークが担う最も重要な役割はいかに安定した無線マルチホップ中継を実現するかにあります。当社はそのために、創業後間もない2010年よりおおよそ6年間に渡って大規模複合商業施設での200台規模の無線メッシュネットワークの実証実験を行いました。これを皮切りに、その後も複数の実運用サイトでの実証を通じて安定性向上のための改良に取り組んでまいりました。これらの活動を通じて培われた様々な技術やノウハウが当社の技術基盤を形成しています。
電波の伝搬経路は周辺の構造物や素材の影響を受けやすく、事前に予測することが困難です。さらにWi-Fi通信は免許不要で利用できるため、周囲の電波干渉も通信品質に影響を及ぼします。無線メッシュネットワークの研究開発で培ったスモールセル環境下での無線通信の安定化技術は、当社製品におけるWi-Fiアクセスポイント機能の開発にも活かされています。
しかし、無線システムの安定運用を支えるのは、電波の制御技術だけではありません。
Wi-Fiチップはコモディティ部品として大量生産され、これらのWi-Fiチップに付随するソフトウェア開発基盤も容易に入手できます。その一方で、後者の多くがオープンソースをベースとしており、残念ながら、バグやロジック上の矛盾を数多く内包しています。これらの問題をいちはやく見つけ出し的確な修正を行うことは、時に新たなプロトコルを開発する以上の時間と手間を要します。
オープンイノベーションは知の共有が生んだ現代の叡智だと言えますが、その使いこなしのためには並々ならぬ努力が必要です。
当社は、この困難に立ち向かうべく様々な試行錯誤を繰り返してきました。
数百台の疑似端末を用いた自動評価システムの開発、精査された1万項目以上に渡る品質評価、実運用を兼ねた評価サイトの長期運用による現場起点の品質改善、などなど。ファームウェアのメジャーアップデート時には1か月間に渡る品質評価試験を行い、厳格な基準に基づいて、最終的にはCEO自らによるファームウェアリリース判定を都度実施しています。
改善活動に終わりはありません。今後も妥協せずに品質向上へのあくなき挑戦を続けて行きます。

写真 当社が開発した自動Wi-Fiアクセスポイント評価のための疑似端末アレイの一部
著者

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩
NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。