周波数って何ですか?・・・と問われたとき、
皆さんはどう答えますか?

私と同世代の70年代以前に生まれた方々は、旧いラジオのチューニングインディケータに刻印されていた数字を思い出すのではないでしょうか?そう、あれです。

このブログでも、周波数の話は何度か取り上げてきましたが、そもそも周波数というのはなんなのか・・・改めて問われると疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。

今回はこの周波数にまつわる、実は古くて、でも新しい動向についてお話をしたいと思います。

周波数って何ですか?

旧いラジオに刻印された「周波数」。AMラジオモードにセットし、ダイヤルをある周波数にチューニングすると、ラジオの中ではその周波数をもった正弦波(サイン波)が生成されます。この正弦波に、アンテナを介して電波から電気信号へと変換された受信波を掛け合わせると、あら不思議、2つの波がラジオの中で生成されます。この2つの波は、ひとつは非常に高い周波数、もうひとつは非常に低い周波数を持った波です。

そして、低いほうの周波数だけが通過するようにフィルタをかけます。このフィルタを通した後の信号がAMラジオの電波に乗ってやってきた「音」なのです。この処理を復調と呼びます。FMラジオでは、さらにもうひと手間かけて音を抽出します。なお、復調方式は他にも様々な方法があります。

チューニングする周波数を変えることで、様々な放送局から送信された音を聞き分けることができます。放送局に割り当てられた周波数が異なるのは、同じ周波数だとお互いに干渉してしまうからです。

しかし、この干渉、いつ何時でも深刻かと言えばそうでもありません。

周波数再利用

例えば、同じ周波数が割り当てられた放送局Aと放送局Bがあったとしましょう。放送局Aと放送局Bは離れた場所に位置するものとします。

周波数再利用

ラジオが放送局Aのそばに位置したとしましょう。このラジオは、放送局Aに近いので、放送局Aからの大きな電力の受信波を受けることになります。一方、放送局Bからの電波は、相対的に小さな電力の受信波としてラジオは受信します。
もし、このラジオが、放送局Aの受信波を放送局Bの受信波より十分大きな電力を持って受けていれば、放送局Bからの干渉波は無視できます。同様に、このラジオが、放送局Bのそばに位置すれば放送局Aからの電波干渉を無視できます。

これを周波数再利用と呼びます。

放送局Aと放送局Bが互いに離れた場所に位置することで、同じ周波数を空間的にすみ分けて再利用することができるのです。この周波数再利用は、テレビやラジオ、携帯電話などのほとんどの民生通信システムで採用されています。

周波数共用

では、もしラジオが、放送局Aと放送局Bの中間くらいに位置する場合はどうでしょうか?

この時のラジオは、放送局Aからの電波も、放送局Bからの電波も、だいたい同じくらいの強度で受信します。互いに干渉してしまい、音を聴き分けることはできません。この領域では、放送局Aと放送局Bに割り当てられている周波数は利用出来ません。実にもったいないですね。

ここで、第3の放送局Cをラジオのそばに配置することを考えてみます。ラジオから放送局Aと放送局Bは遠いですが、放送局Cはごく近距離に位置します。

この放送局Cへ、放送局Aならびに放送局Bと同じ周波数を割り当てて別の放送を行うとどうなるでしょうか?

この時のラジオは放送局Aと放送局Bから干渉を受けています。しかし、放送局Cはこのラジオのごく近距離に位置しますから、ラジオが受ける放送局Cからの受信電力は充分な強度を得られます。放送局Aと放送局Bからの干渉波が足し合わさってラジオには受信されますが、それよりもはるかに大きな電力によって放送局Cからの電波を受信できれば、これらの干渉波に打ち勝って、見事に放送局Cからの音を聴くことができます。

周波数共用

周波数共用

これを周波数共用と呼び、この周波数を放送局C近辺のエリアにおけるホワイトスペースと呼びます。

周波数共用にはとても大切なルールがあります。放送局Cがあまりに大きな電波で送信してしまうと、今度は放送局Aと放送局Bの近辺に位置するラジオへ逆に干渉を与えてしまうのです。先に放送を開始していた放送局Aと放送局Bが、互いに距離を隔ててうまくすみ分けて電波を再利用していたのに、突然後から現れた放送局Cが各々の守備エリアへ電波干渉を及ぼしてしまうのでは彼らはたまったものではありません。

この問題を回避する為に、周波数共用を行う場合には、放送局Cは小さな出力の電波しか出せないように制限します。放送局Cが出した電波が、放送局Aと放送局B、それぞれのエリアのラジオへ無視できるくらい微弱な干渉波で済むように、放送局Cの電波出力を抑制すればよいのです。したがって、放送局Cがカバーできるエリアは、放送局Aあるいは放送局Bがカバーできるエリアに比べてずいぶん小さなエリアとなります。

周波数共用の有名な先駆者「FMトランスミッター」

このような周波数共用のポピュラーな先駆者と言えば、何といってもFMトランスミッターを挙げることが出来ます。

周波数共用の有名な先駆者「FMトランスミッター」

昔のカーオーディオと言えばラジオくらいでした。自動車でもカセットテープの音楽を聴きたいという需要にこたえるべく、カセットプレイヤーの音声出力を微弱なFM放送電波へ変換し、カーラジオで再生できるようにする変換装置がFMトランスミッターです。自動車内限定、伝送距離は約1〜2mくらいでしょうか。超微弱な電波にカセットテープの音を乗せて伝送するデバイスです。

モバイル通信でのポピュラーな周波数共用の事例

一方、最近のモバイル通信でのポピュラーな周波数共用の事例としては、5.6GHz帯におけるWi-Fiとレーダとの周波数共用を挙げることができます。この周波数共用においては、そもそもWi-Fi自体が微弱な電波しか出してはいけないというレギュレーションに加えて、さらに念を入れて、Wi-Fiデバイスがもしレーダを検知した場合には直ちに電波を停止して別のチャネルへ移動するという規制が導入されました。先行者に配慮したエチケットルールというわけです。

Local5Gも一部の周波数で周波数共用が行われています。場所によって利用可能な周波数や出力が制限されていたり、屋内でしか使えないなどの制約を設けることで周波数共用を行っています。

電波は人類に与えられた唯一の資源

このような周波数共用の技術は、電波不足を解消するためのカギとなる技術として6G以降、さらに導入が進んでいくと予想されます。それくらい、周波数は足りなくなっているのです。携帯電話の出現に伴って、人類はかつて経験したことがないほどに電波を利用するようになりました。電波は人類に与えられた唯一の資源。知恵を絞って効率的に活用することがますます重要になってきています。

    

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。