PicoCELAは、インターネットの「点を面」にすることが得意なテクノロジーを提供する会社です

Starlinkの画期性は、天空が開けている場所であればどこでもインターネット回線を確保できることですが、Starlinkが提供するインターネット接続サービスの本質は結局のところ「点」であります。最終的なユーザ端末をStarlink経由でインターネットに接続するためには、この点を面に変換する必要があります。

PicoCELAは、まさにこの「点を面」にすることが得意なテクノロジーを提供する会社です。

つまり、StarlinkはWAN(Wide Area Network)側のテクノロジーであるのに対して、PicoCELAはLAN(Local Area Network)側のテクノロジーなのです。

PicoCELAとStarlinkは相補的かつ好相性

ワイヤレスファーストという言葉があります。

昨今のユーザデバイスは、コンシューマシーンであろうが、エンタープライズシーンであろうが、ほとんどは無線通信でインターネットに接続します。例えば、検品で用いるハンディターミナルは無線通信が当たり前、有線接続が必要となれば折角のハンディさが損なわれてしまいます。また、いわゆる「フリーアドレス」が主流のオフィスでPCにLANケーブルを接続するシーンは、あまり見かけません。

ワイヤレスファーストを実現するためには、WirelessLAN(昨今ではほぼWi-Fiと同義)エリアの構築が不可欠です。PicoCELAの無線メッシュ技術は、WirelessLANのカバーエリアをより広域化できる技術です。Starlinkによって、地球上のあらゆる場所でインターネットの接続「点」を確保できるようになりました。PicoCELAによって、この点を面に広げることができるようになります。
PicoCELAとStarlinkは相補的かつ好相性であると言えるでしょう。

PicoCELAデバイスを通信衛星のように活用

ところで、Starlink衛星の役割は、各CPE(Customer Premises Equipment,平面あるいはお皿型のアンテナ)と地上局間の中継です。地上局がインターネットとのゲートウェイとなり、衛星を介してCPEをインターネットに接続しているのです。

Stalink衛星、Starlink CPE、Starlink地上局の関係

図 Stalink衛星、Starlink CPE、Starlink地上局の関係を示す模式図

このStarlink衛星は地上550kmの上空を飛んでいます。高い場所に中継局があると見通しが確保しやすくなり、良好なリンク品質を得やすくなります。PicoCELAは無線中継を行うテクノロジーですから、PicoCELAデバイスを高い場所に設置すれば、通信衛星のように活用できるかもしれません。

思い立ったが吉日、早速、実験をやってみましょう。

PCWL-0510は、1台で最大4つの指向性リンク間の中継処理をこなすことが可能

高台に建つ建物の比較的見晴らしの良い2階ベランダに、衛星に相当する屋外機PCWL-0510を設置する事にします。これを510衛星と呼ぶことにします。510衛星の設置場所は高所かつ四方八方・遠方まで見通しが効く場所が良いのですが、今回確保出来た場所は標高38mの高さで限られた方向のみ見通しが効く場所でした。理想には程遠いですが、今回は実験なので良しとします。

510衛星を中継機として、地上局ならびにCPEに見立てた2台のPCWL-0510をそれぞれ下図のように配置します。前者を510地上局、後者を510CPEと呼ぶことにします。510地上局はLANケーブルによってインターネット回線と接続します。

図、510衛星、510地上局、510CPEの位置関係を表す模式図

図 510衛星、510地上局、510CPEの位置関係を表す模式図

510衛星には、2つの指向性アンテナを接続します。一つは510地上局との通信のため、もう一つは510CPEとの通信のためのアンテナです。今回、指向性アンテナを適用した理由は電波到達距離の拡張のためです。最新機種PCWL-0510では、1台で、最大4つの指向性アンテナを取り付け可能、これらよって形成される複数の指向性リンク間の中継処理をこの1台でこなすことができます。

指向性アンテナは技適取得済みの当社オプション品です。水平垂直面内ともに半値角が15度、主軸ゲインが15.5dBi、防水性能IPX5のビームアンテナです。

写真 510衛星の設置の様子

写真 510衛星の設置の様子。
標高38m。2つの指向性アンテナをPCWL-0510のBHアンテナポートにそれぞれ接続。一方の指向性アンテナは510地上局向けに主軸が下方向を向くように角度を調整、他方の指向性アンテナは510CPE向けに水平面よりやや下を向くように角度を調整した

510地上局と510CPEにもこの指向性アンテナをそれぞれ1個取り付けます。

510地上局は510衛星を設置した建物の庭に設置、510衛星からは約5mほど低所となります。実験環境の制限のため、今回は510地上局と510衛星とはこのような至近距離の位置関係とします。510地上局のeth-upポートは有線LANケーブル経由でルータに接続しインターネットに接続します。

写真 510地上局の設置の様子

写真 510地上局の設置の様子。
1つの指向性アンテナをPCWL-0510に接続。510衛星へ向けて指向性アンテナの主軸を上向き方向へ設定

一方、510CPEは、510衛星から1.2km離れた標高8mの場所に設置しました。510CPEからは510衛星を視認することは困難ですが、逆からはこのエリアへの見通しが取れることを確認しています。

写真 510CPE設置の様子

写真 510CPE設置の様子。
510衛星へ向けて指向性アンテナの主軸の向きを設定。目視では510衛星は小さすぎて確認できず

各PCWL-0510の設定を行います。まず、いずれのPCWL-0510もバックホール回線(無線メッシュ回線)のアンテナを指向性アンテナに設定します。

510地上局、510衛星、510CPE、いずれもwebUI上でバックホール回線のアンテナを指向性アンテナに設定

図 510地上局、510衛星、510CPE、いずれもwebUI上でバックホール回線のアンテナを指向性アンテナに設定

また、今回はアクセスポイント機能は利用せず、バックホールのみを活用しますので、アクセスポイント側の無線機をオフにします。

図 510地上局、510衛星、510CPE、いずれもwebUI上で5GHz, 2.4GHzともにアクセスポイント側の無線周波数帯を無効に設定 図 510地上局、510衛星、510CPE、いずれもwebUI上で5GHz, 2.4GHzともにアクセスポイント側の無線周波数帯を無効に設定

図 510地上局、510衛星、510CPE、いずれもwebUI上で5GHz,2.4GHzともにアクセスポイント側の無線周波数帯を無効に設定

チャネル設定については、PCWL-0510の工場出荷状態をそのまま用いることにします(本ブログで用いたファームウェアのバージョンはFW1.2.9です)。帯域幅40MHzの屋外チャネル設定で、利用できるチャネルは100~140CH、いわゆるW56バンドと呼ばれているチャネルです。このバンドは、気象レーダ等の他の無線サービスからの干渉電波を受信した場合は通信を停止し、同バンドの他のチャネルへ移動しなければなりません。これをDFS(Dynamic Frequency Selection)と呼びます。PCWL-0500シリーズでは、DFSを行うためのレーダ センシング用の無線機を搭載しており、高速でDFS処理が行えます。

510地上局は、コアモードに設定し、eth-upポートを介してLANケーブルにてインターネットに接続します。一方、510衛星、510CPEはともにブランチモードを設定します。

図 510地上局はコアモードに設定

図 510地上局はコアモードに設定

図 510衛星と510CPEはともにブランチモードに設定

図 510衛星と510CPEはともにブランチモードに設定

以上で設定は完了です。機材をセットアップ後、510CPEのwebUIにて接続の状態を確認してみましょう。

図 webUI上でのバックホール接続の様子

図 webUI上でのバックホール接続の様子

上図のように、3台のPCWLが接続していることを確認できました。バックホールリンクの品質を表すPCWL-0510本体のリンクLED色については、510地上局と510衛星間は緑色(良好)、510衛星と510CPE間は赤色(限界)でした。
推奨は黄・緑・青色ですので、510衛星と510CPE間はギリギリの品質の状態でした。

スループットを測ってみましょう。510CPEのeth-downポートにLANケーブルでPCを接続し、510地上局までのスループットを測ります。webUI上の「診断」〜「ネットワークスループット」で510CPEと510地上局間のスループットを測定できます。結果は次の通りでした。

図 510CPEと510地上局間のスループット

図 510CPEと510地上局間のスループット

510衛星の設置高が低いにも関わらず欲張って1km以上も離れた場所に510CPEを設置したため、リンクが確立出来るかどうかも疑われましたが、平均30Mbpsの回線を概ね安定的に得られました。

指向性アンテナの角度合わせはスループット性能を決定づけるとても重要な作業です。今回は私一人で作業を行い、しかも正味1日しか作業時間を得ることができなかったので、ファインチューニングはできませんでした。いずれのPCWL-0510も、目視により、大方の目安方向へアンテナを向けるだけの簡易な調整でしたが、20Mbps超のリンクスピードを安定的に確保できたので、まあ合格としましょう。

PCWL-0500/510は4つのアンテナポートを装備していますので、まだ2ポート(510衛星)ないしは3ポート(510地上局と510CPE)の空きポートがあります。各PCWL-0510に指向性アンテナを追加し、さらにアンテナ角度のファインチューニングを施せば、もう少し高いスループットが得られたと思います。

以上、いかがでしたか?

今回は、屋外機PCWL-0510とオプションの指向性アンテナを活用して、PicoCELAによって簡易な「陸上」衛星通信システムなるものを構築してみました。本構成は、IoTやM2M向けの簡易な無線通信インフラとして様々な応用を導くものと思います。

510衛星をビルの屋上などもっと高い場所に設置すれば、より一層周辺エリアとの見通しが確保しやすくなるでしょう。また、510衛星に直接光回線を引き込めば、510地上局をなくすことができ、スループットの向上や全体コストの低減が可能となります。もちろん、510衛星の隣にStarlinkCPEを設置して光回線の代わりにインターネット回線を確保することもできます。

本実験が皆様のイマジネーションを刺激し、新たな応用に結びつけばと思います。

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著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。